ポケットの恋
言い終わって、古谷は寝ている真実の顔を見て微笑んだ。
「秋田はねぇ、子供だよ、ホント。あの時からは想像出来ないほど大人になったのに、俺が本気で好きなことに全然気づいてない」
さらりと言われた古谷の言葉に、南部は思わずビールを口に運ぶ手を止める。
「………好きなんだ」
「うん」
古谷が何故か得意げに笑う。
「でも秋田にとっては、俺は、絶対触れたくないトラウマの原因、から、大好きなお兄ちゃん、に戻っただけなんだよなぁ、再会してから半年近く経っても」
「…そうなんだ」
突然、珍しく素直になりはじめた古谷に、たいした相槌も打てずに南部がつぶやく。躊躇いながら、更に言葉を重ねる。
「でもお前、由利ちゃんは?…また付き合うことにしたんだよな?」
あぁ、と古谷が軽く笑った。
「そうだよ」
「え…」
普通に返ってきた答えに、思わず声が零れる。
「なんで…」
「俺のせいで秋田が傷付くのはやだから」
「でも…お前はいいのかよ、それで」
ありきたりな言葉に、古谷は無言で頷いた。
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