ポケットの恋
「そんなおっそろしい顔でいられると売上落ちると思うんだけど」
「あ゛ー…ごめん…」
もそもそと言葉を返す。
磨いていたグラスを片付けると頭を掻きむしった。
そのまましゃがみ込む。
古谷は南部に胡乱気な視線を送った。
そうしながら自分もその横にしゃがみ込む。
「最近変だけど。なんかあった?」
「いや…別に…」
「当ててあげよっか?戸田からのお礼でしょ」
思わず立ち上がる。
古谷はその南部をちらっと見て、逆に驚いたように呟いた。
「え…まじなの?」
仕方ない。無言で頷く。
古谷は一瞬呆けたような顔をして、次の瞬間吹き出した。
「なんだよおまえ!」
思わず怒鳴る。
「だって…くっ…ぉまっ…もう2週間位経たね?」
「悪かったな!まだ決めてなくて!」
古谷はその南部の言葉もツボだったらしい。
それからしばらく肩を震わせていた。
そろそろ南部が真剣にキレようかという頃、古谷は声を発した。
「相談のろうか?」
さっきまであんなに爆笑していた人間に相談したくない。
その言葉が喉から出かかったが、この機会を逃したらもう無いと考え直した。
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