ポケットの恋
「うざい!なまはげ!キモい!なまはげ!」
「なまはげは真実ちゃんでしょぉ?」
「は!?言ったね!?言ったね!?ばいばいあばよ!」
そう言って真実は踵を帰す。
「真実ちゃん歩いてた方向と違うよ?おうちこっちじゃないの?」
「ほっとけ!用事思い出した!」
「じゃ危ないからついてくー」
その古谷をぎろりと睨むと勝手にすればと吐き捨てた。
「ねぇ、真実ちゃんさぁ。ちっちゃい時の事覚えてる?」
真実の表情が凍えた――気がした。
間髪入れずに真実が返す。
「取りあえずあんたのことは何にも覚えてない」
ここまで彼女の心を頑なにしたのは俺なんだよな。
少し切なくなってから、また思考が横滑りしていることに気づいた。
「―…そっかぁ」
無理に出した脳天気な声は、見事に失敗したと思う。
何の反応もしない真実は気がつかなかったのか、気がつかなかったふりをしただけなのか。
「ねぇ真実ちゃん」
「さっきから名前呼びすぎ」
憎まれ口は無視した。
「どこ行くの」
「あんたのいないとこ。」
首だけ振り向けて言った言葉は、俺を傷つけるには的確過ぎた。
そのまま去っていく背中を見送る。
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