ポケットの恋
幸日は、礼を言われたのが気恥ずかしかったのか、くすぐったそうに笑った。
それは可愛い。
可愛くて嬉しいのだが――お礼を強調されたことに少し気分が沈んだ。
「何がいいですか?ネックレスとかリングより、バングルとかピアスの方がちょっと安いかな」
「…ピアスかな、この前あけたって騒いでたから」
心持ち沈んだ声で答える。
この日を楽しみにしていたのは自分だけだったのだろうか。
浮かれていた自分が恥ずかしくなった。
幸日は南部の微妙な変化には気づかなかったらしい。
「じゃ、あっちのがありますね」
そう言って奥の方へ進んで行く。
「どんなのが好きなんですか?」
「えぇっと…」
姉の持ち物を見る限り、恐らくごてごて系はあまり好きではないのだろううというのは何となくわかる。
いつもシンプルなデザインで固めていることが多い。
それはわかっているのだが、わからないふりをした。
「よくわかんないな。戸田さんはどんなのが好きなの?」
「あたしですか?」
「うん。センスよさそうだから」というよりは、単に好みが知りたいだけなのだが。
「うーん…これなんか、無難だと思います」
そう言って手に取ったのは確かに街でよく見掛けるようなデザインだ。
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