ポケットの恋
「戸田さんが買うとしたらどれ?」
「あたしですか?あたしだったら……これ、ですかね、ピアス開けてないけど」
はにかむようにして見せて来たのは花の形をした輪が二つ組み合わされた、華奢なピアスだった。
「じゃあ、これにする。」
幸日からピアスを攫う時に指が触れ合ったのは、もちろんわざとだ。
「え…でもこれあたしの趣味だし…」
「これセンスいいと思う。無難なのよりこっちのが姉貴好みな気がするし。」
顔の横にピアスを提げて笑ってみせると幸日はじゃあ、と頷いた。


「この後どうする?」
ピアスのラッピングが終わるのを待っている間、さりげなくそう尋ねてみた。
案の定、幸日は戸惑った顔になる。
お礼は買い物に付き合うだけなのだから当たり前だ。
「この後ですか?」
何気なさを意識して頷く。
「なんか予定入ってる?」
幸日の事情もあるだろうが、できればこれでさよならは避けたい。
何の用も無しにメール出来るほどの仲でもないし、このまま終われば関わりがなくなるのは必至だろう。
「えぇっと…特に何も」
「じゃあ、どっか入らない?」
幸日の口が開くのが、やけにゆっくりに思えた。
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