ポケットの恋
幸日が指差す方向を見る。
「そうだけど…」
答えると、幸日は困ったように眉を寄せた。
「どうした?」
幸日は怖ず怖ずと口を開く。
「あの…あそこ真実ちゃんのバイト先」
「秋田さんの?」
「うん…。えっと、ごめんなさい、何か恥ずかしいから別のとこでも良いですか…?」
確かに、男と一緒にいるところなど、友達に見られたら恥ずかしいだろうが、付き合っているわけでもないんだし。
少しひねくれた言葉は、もちろん口には出さなかった。
良い意味なのか、悪い意味なのか。
考え込んでいた南部を、幸日は店をかえることにしぶっているととらえたらしい。
焦ったような声が聞こえてきた。
「ここでもいいんですけどっ」
「あぁ!違う違う。いいよどこでも。どこがいい?」
「あ…えっと…ちょっと遠くなりますけど…」
その問いに大丈夫と頷く。
そのまま二人でカフェを通り過ぎようとした時、今1番会いたくない人物を店内に見つけた。
「古谷…」
思わず呟く。
「よし君?いるんですか?」
幸日の声に渋々頷き、指差した。「ほんとだ」
幸日が少しびっくりしたように言う。
「真実ちゃんいるって知ってるのかなあ」
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