ポケットの恋
「弁当じゃん。寂しいねぇ」
「うるさいな。今日はちみちみ飯作ってる気分じゃないんだよ」
「でも秋仁料理うまいじゃん」
「でもの意味がわからん」
「イヤー。俺はこんにゃくでもあっためてるのかなって思った」
「なっ…何の話だ何の!!」
思わず咳込んだ南部を見ながら、古谷はニヤニヤと笑った。
「でもその様子じゃ、うまくいったみたいだね。戸田とのでぇと」
思わず開いた口が空気を噛む。
古谷のニヤニヤ笑いが更にひどくなった。
「告った?告った?」
来ると思った。
鼻からこの男に隠し事ができるとは思っていない。
一呼吸置いてから答える。
「告って、ませんけど」
今度は古谷の口が空気を噛む番だった。
「は…?」
「だから、告ってない」
古谷は信じられないというように問い掛けてきた。
「なんでよ。ありえないよね?」「お礼と称した初めての二人で外出って時にいきなり告る方がありえないだろ」
溜め息をつきながら、弁当を持ってラグに座る。
「あぁー…そう…」
古谷は脱力したように言うと、当然のように冷蔵庫からビールを取り出して向かい側に座った。
< 64 / 341 >

この作品をシェア

pagetop