ポケットの恋
笑っていたかと思えば、古谷はころりと話題をかえた。
「俺だけ教えるのは理不尽だと思う…っ」
んだが。までは言わせてもらえなかった。
古谷が持ってきていたさきいかを、袋ごと南部の口に突っ込んだからだ。
「秋仁、ビールちょうだい」
それこそ理不尽な古谷の発言に、南部はさきいかの袋を口から取り出して食ってかかった。
「何すんだよ!口ん中切っただろ!さきいかの袋固いこと知ってるだろお前も!!」
「え?なんか言った?」
あくまでにこやかな古谷を見て、南部は大きく脱力した。
「俺お前といると半分以上怒鳴ってる気がする…」
「うーん、俺は秋仁といるとずっと笑ってる気がするなあ。将来笑い皺すごいことになったら間違いなく秋仁のせいだよ、責任とってよね?」
そう言って微笑む顔が、憎らしくて堪らない。
「俺の責任じゃないだろ!おまえが笑い上戸なのが悪い!」
「そぉ?」
古谷は楽しそうに言ってから、目を細めた。
「まあさ、秋仁は戸田とうまく行ってよね。ちゃーんと応援してるんだから」
「古谷…」
妙にしみじみと言われた言葉に、思わず言葉を失う。
しかし、次の瞬間には古谷の顔は小憎たらしいそれに戻っていた。
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