ポケットの恋
締め切っていなかったカーテンからもれる朝日で、古谷は目を覚ました。
隣の南部はまだ寝ている。
こいつは幸せそうだよな。
少し卑屈になった思考を振り払って、古谷はたちあがった。
「頑張ってる秋仁サンのために、朝食でも作ってあげよう」
キッチン回りの棚を漁って、食パンを取り出す。
取りあえずトーストでも、と思ってトースター突っ込んだところで、南部が起きてきた。
「何やってんの」
「あら。オハヨー秋仁サン」
「キモい」
「…秋仁、朝弱かったっけ?」
南部にしては顔が怖い。
「…いや。強い。そんなことよりも、俺朝は白米系なんだけど。後昨日の晩飯の代金払えよ。仕送り少ないんだから」
古谷はそれには答えず、いきなり南部の額に手を当てた。
「なんだおまっ…」
後ずさろうとした足元がふらつく。
「あーあ秋仁。これ、風邪だわ。」
古谷はそう言うとはいはいと、南部をベッドに押し戻した。
「寝てなさい」
「は?良いって…」
そう言いながら抵抗する力は普段の半分以外だ。
気付いた時には布団を胸まで掛けられて寝かされていた。
風邪を意識したせいか、急に思考がぼやけて来る。
「あ、そーうだっ」
古谷の呟きは、既に南部の耳に届いていなかった。
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