ポケットの恋
しばらく間があって、ガチャンとドアが開いて、閉まる音がする。
どうやら本当に出て行ってしまったみたいだ。
「目につかない状態ってそういうことなの…?」
思わずくちにでる。
ひそひそ声はかろうじて取り戻した。
取りあえず、と幸日は古谷の用意してくれた袋を引き寄せる。
音をたてないようにして、中を漁った。
「あ…」
いきなり声がする。
「幸日ちゃん…?」
見ると南部がゆっくりと体を起こす所だった。
「わっ…あぁごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
思わず繰り返し頭を下げる。
ふっと微笑む気配がした。
「どうせ古谷が呼んだんでしょ?ごめんね」
いつもと違う掠れたような声。
幸日は心臓を掴まれたような気がして言葉を詰まらせた。
「だいじょぶ…です。あの…南部さんは大丈夫ですか?」
絞りだすようにして言う。
南部は力無く笑った。
「大丈夫だよ?」
その顔が青ざめているのが痛々しい。起き上がっているのがつらそうだ。
「南部さん、横になってた方が…」
「平気」
「全然平気そうじゃないですよ!何か欲しいものありますか?あ、熱計りました?」
「いや、まだ…」
南部はやはり辛そうに答えた。
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