ポケットの恋
心なしか、息が上がっているような気がする。
「じゃあ、計りましょう。体温計ありますか?」
「多分…救急セットの中にあったような…そこの下の棚」
それを聞くと、幸日は南部の肩に手をかけた。
そっとおすと、南部は素直に横になった。
「横になっててください。今もってきます」
「ありがとう」
南部は言いながら笑顔を見せる。幸日は教わった棚から体温計を取り出した。
振り返ると、南部がきょろきょろ辺りを見回していた。
「どうかしたんですか?」
幸日の問いに南部は首を傾げる。
「古谷は?」
「え!?」
幸日は小さく声をあげて固まった。
「ぉ…ぇ…よし君買い物っ」
しどろもどろで台詞を絞り出す。南部は特に疑わなかった。
「そっか」と頷く。
まさか古谷の悪ふざけによって二人きりにされたなんて言えない。南部さんだって嫌だろうし。
言い訳がましい台詞を心の中で呟きながら、幸日は南部に体温計を渡した。
南部はありがとうと掠れた声で言い、熱を計りはじめた。
しばらくして、体温計が終わりのアラームを鳴らす。
見ると、38度をゆうに越した熱だった。すでに9度近い。
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