ポケットの恋
ベッドの脇で幸日にキッスを迫るシーンを一人二役で熱演していた古谷に、南部は呆れたように言った。
「ありゃりゃ」
古谷は何事も無かったかのように声を上げる。
「秋仁、いつもなら怒鳴るのにねぇ、熱だけではない…おぬし!何かあったな?!」
妙な戦隊ヒーローのようなポーズを決めた。
それを軽く無視する。
南部はもぞもぞと起き上がると、キッチンへ行き冷蔵庫を開けた。
そこからミネラルウォーターを取り出して喉へ流し込む。
それを仕舞うと手近な椅子に座った。
「知ってるんだろ?」
そこで言われた一言に、古谷は口を尖らす。
「なーんだわかってた?…って言ってもまあ、秋田と俺無視して公園から逃げてく戸田、見ただけだけどね」
「…かんっぜん早まった…」
南部は頭をぐしゃぐしゃと掻いた。
ぽつりぽつりと事の顛末を話し始める。
所々ツマミながら話すのに、たいした時間はかからなかった。
話し終えた途端、机に突っ伏してフリーズした南部を見ながら、古谷は深いため息をついた。
「だいたい話はわかった。わかるよ…そりゃかいがいしく世話されれば口走っちゃうもんだよ」
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