ポケットの恋
10
それからしばらく、幸日は大学に顔を出さなくなった。
幸日は単位に余裕をもって講座を入れているので特に心配はないだろうが、やはり心配なものは心配だ。
今日辺りまた行ってみようかと考えながら、真実はバイト先のカフェに急いだ。
ちょっと早く行って、ちょっと早くあがらせてもらおう…―。



「あ。秋田遅いー」
裏口から入るのは面倒なので、正面から入ったら、真っ先に古谷が目に入った。
「…ナンデイルノヨ」
「なんで片言ー」
真実は古谷を避けるようにスタッフルームへ入ろうとする。
その行為は当然のように古谷に阻まれた。
「秋田、お客様には丁寧に接しないと。ね?」
そう言って笑う古谷を睨みつけて言う。
「何の用?」
「戸田どう?」
「あー…」
真実はそのことかと、合点がいったようだった。
「学校来ないし、メールにも返事くれない。何度か家には行ってみたけど」
体を屈めて古谷に近づくと、手で口元を覆うようにして伝える。
「秋仁のメールは?読んでくれたっぽい?」
「わかんない。読めとは言ったんだけど…」
「じゃあ、進展ゼロ。っていうか後退しちゃったかなあ…」
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