ポケットの恋
「あ、じゃあここで」
そう言った真実の腕を古谷は掴んだ。
「無視すればいいし。家まで送る」
「いや、いいって!出なさいよ!」
その問答を続けている間も、携帯は鳴り続けている。
「ほら!ああもう!」
いきなり真実は音の鳴ってくる方から割り出したのか、古谷の尻ポケットに手を突っ込んだ。
「ちょ…秋田!!…」
古谷は本気で驚いた声をあげて身を引く。
真実はそれを意にも介さず、古谷の手に予想通り見つけ出した携帯を載せる。
そして止める間もなく、じゃあねと走って行った。
「まじ…タイミング悪いんだけど」
古谷はぐしゃぐしゃと頭を掻く。それでも鳴り止まない携帯に、舌を打つ。
相手を確かめもせずに出た。
「良行!!」
痺れをきらしていたらしい相手は、電話の向こうで大声を上げる。
きーんとした耳を人差し指で塞ぐともう一方の耳に携帯をあてなおす。
「何。うるさい」
「一年の秋田真実って子と最近仲良いよね!?どういうこと!?」
その言葉で全てを察した。
同時に相手の女が気持ちが高まりでもしたらしい、泣いていることも。
くだらない。
「だったら何?」
配慮の一切ない冷たい声で答えた。
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