ポケットの恋
幸日は一瞬びくりと肩を震わせて、小さく縮こまった。
「…好きっていうのは…どういう好きだったのかわかんなくなっちゃった」
搾り出された声を、真実は優しく促す。
「うん」
「あたしが困ってるのは…あたしはそういう気持ちじゃないのに、南部さんがそうだからなのか…」
「うん」
「あたしがそういう気持ちだから、急に話が進展してぐちゃぐちゃになっちゃったからなのか…」
「うん」
「でも、あたしは南部さんと仲良くしたいの。一緒に買い物行ったときも楽しかったし。だから今のままは嫌なの」
真実はそこで溜め息をついた。
「ならあんたそれそのまま書けばいいんじゃないの?」
「え…」
幸日はきょとんと真実を見つめる。
「だから、南部さんと買い物行って楽しかった、これからも仲良くしたいって」
幸日は視線を迷わせて頷いた。
「む…無理だよ…」
「でもそれが無難じゃないの?好きっていうんでも嫌いっていうんでもなく。とりあえず関係は続けてきたいみたいなのが伝わるでしょ」
言いながら真実は恥ずかしくなってきた。
自分が大した恋愛経験も無いのにこんな知ったかぶって話して良い訳?
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