夜  話  
「冷えるぞ?」


突然。


耳元で囁かれて。


身体からさまよい出て、心地よく月の光の中を遊んでいたわたしの心は、驚いて飛び帰って来たのでした。


驚愕に跳ね上がった胸を押さえ、わたしは声の主を軽く睨みました。


「……………心臓が止まるのかと思うぐらい驚いたわよ?」


そう苦言を呈しても、漆黒の闇を背景にして木枯らしの中に浮かぶ美貌の持ち主は全く気にする素振りもなく、わたしに言いました。


「冷えると良くないだろう?
なのに、ぼんやりと突っ立っているから、声をかけてやったんじゃないか。」
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