君に届きますように
だが、少年はまったく無防備に口を開いた。
「やった!お兄ちゃん名前教えてよ!ボクはね、陸っていうの」
「り……く?」
「そう!お兄ちゃんは?」
いっこうに引き下がらない少年。
別に他の子どもも気にしていないようだった。
自然と、笑みがこぼれてしまう。
「あ、ああ……俺は、拓海だ。たくみ」
「拓海!!」
呼び捨てかよ。
正直、ここはお兄ちゃんと言う単語がつくはずだ。まぁ呼んでほしいわけではないので別に構わない。
「よし!じゃぁガキ…」
「りくっ!」
「……。じゃぁ、陸、バケツに水を入れてこいよ」
「うんっ!!」
陸は、ニコニコ笑いながら持っていた小さなバケツに水を入れに行った。
砂場には幸い、他の子供がいない。
俺は服の袖をまくり、小さな山を作り始めた。
砂を触るなんて、久しぶりだった。
体育の時以外は汚くて触ろうとなんて思わない。
新鮮な気持ちだ。
「も、持って…きたよっ!」
小さなバケツいっぱいに水を入れた陸が重そうにゆっくりした歩みで戻ってくる。
「…よし、作るか!」
俺は、砂場から離れて陸から、ひょいっとバケツを取り上げると走った。
子供には重い水の入ったバケツだが、俺には水筒を持ってるくらい軽かった。
「あ、もう!ボクのなのにー!!」
取り上げたのを怒ったのか、陸は追いかけてくる。
ただ、小さな出会いで俺は不思議と楽しく感じていた。