サクラナ
 その日、
 吉野は家に帰ると
自分の部屋に閉じ籠り一枚の便箋と写真を見ながら考えた。

 「この絵ひとつ書くには最低一時間はかかるだろう……。
 普通ならこうまで丁寧に絵を描かないだろう……。
 ここに彼女の人柄が現れている。

 だとすると、
 サクラナは噂になっているほど性格は悪くないかもしれない……。
 きっと、根はいい子なんだ。
 でも、何故、彼女はあのときあんなこと言ったんだろう……?

 もしかすると……、
 彼女はおれの気持ちに気づいていたのかもしれない?
 考えてみれば彼女をいつも見ていたのだから
彼女が気づいたとしても不思議ではない。
 だから、
自分に気があると思ってつい口をすべらせてああ言ったんだ。

ところが……、
返ってきたのはそれを否定する言葉だ。
それで、かっこうがつかなくなってああ怒って見せたんだ。

 多分、彼女が怒ったのはそのせいだ。

そうに違いない。

 だとすると、それは自然なことで
彼女は決して傲慢なんかじゃない。
 むしろ、

“あんたが欲しいんじゃないの”

と鋭い所を突かれて逆上した自分の方がよっぽど悪い……。

 それにしても、池田はどうしてこれをくれたのだろう?

 池田も自分のサクラナに対する気持ちに気づいていたのかもしれない。

 だから、あの時、

 「にっ」

と笑ったのかもしれない。

 それにしても、いつ、悟られたのだろう?
 昨日の朝、自分がコロンをつけて朝早く登校してきた時か……?」


        
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