サクラナ
 彼女との出会いは吉野が12の時であった。

正確にいえば、××××年の4月6日である。

彼が中学にあがるので、
入学式の前日に隣町に住む叔父の家に
両親と三人で挨拶に行った日の出来事だから良く覚えていた。

月の湯という銭湯の前を通りかかると、
女湯の暖簾のなかから
ジーンズ姿の小柄でほっそりとした一人の少女が出てきた。

腰までかかる長い黒色の洗い髪が細くしなやかでとても綺麗だった。
卵のような小さな顔に、上気した白い肌、
切れ長の目、小さいが整った鼻は美しかった。

彼はその美しさに立ちすくみ、
彼女が通り過ぎて行くのをただじっと見つめるだけだった。


 そんな思いに耽っていたとき、
おおきな拍手が起こり吉野は我に返った。
仲人の挨拶が終わったのだ。
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