サクラナ
 次の日の昼休みも知恵の処刑の話でもちきりだった。

 吉野は昨日まではどちらかといえば
怒りより零点にされたショックの方が強く
復讐にさほど積極的ではなかったが、
話し合いの中で過去の知恵の行状が思い出されてくるうち、
段々と怒りが増してきた。

 特に、一番損をしたのが自分であることを考えると
むしょうに腹が立って知恵が憎たらしくなってきた。

 そこへ、弘子が、
 「聞いた?チクリンったら角川先生だけじゃなく
他の先生の所にも行って、
康夫君たちのことをチクリ捲っているらしいわ」
 との情報をもって入ってきた。

 ここで、ついに吉野の怒りは爆発した。

 吉野は、
 「畜生、あのチンチクリン、ぶん殴ってやる」
 と大声をあげると、
自分の席をはなれ教室のドアのほうへ走った。

 「行け。」という歓声が上がった。

 と同時に、比較的温厚な吉野が逆上したのに驚いたのか、

 「いやー。」
 という女子の悲鳴に近い声が教室に走った。

 そして吉野がドアの近くまで走り寄ったとき、
ドアの前でサクラナが両手を広げて立っていた。

 サクラナは、

 「どけ。」
 という吉野の言葉に少しも動じることなく、
 かえって、 
 
 「女の子を殴るなんて最低よ。
もとはと言えばあんたが悪いんでしょ」
 
 と言って吉野を睨みつけた。
 
 この時の睨みは前に写真を貰いに行った時とは
比べものにならないほどきついものだった。

 しかも、サクラナの言うことに
一部のすきもなかったので吉野は睨み返すには返したが、
すぐに視線をそらしてしまった。

 吉野の完全な負けであった。

それを悟ったのか、
吉野をけしかけるものはもはやいなかった。

 吉野は、
 「くそっ。」
 と捨て台詞を吐くと、ばつの悪そうな顔をして自分の席に戻った。
< 24 / 89 >

この作品をシェア

pagetop