サクラナ
 そして、

 「少し、しつこかったようね。」

 と呟くような弘子の声を聞いて、
はじめて自分のしたことに気がついた。

 「御免。冗談だよ。」

 吉野の声にサクラナは反応しなかった。
 ただ、机に顔を伏せているだけである。

 それから、しばらく、奇妙な沈黙が続いた。

 あのサクラナが泣いたことに
みな驚いていて言葉が出なかったのである。
 意外にもその沈黙を破ったのはサクラナであった。

 サクラナは泣き腫らした顔を手で隠すようにして顔をあげると、
吉野に向かって大きな声で叫んだ。

 「意地悪」

 そう言うと、サクラナは立ち上がり、

逃げるように教室から出ていった。

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