サクラナ
結婚披露宴から2月が過ぎた。

吉野は仕事を終え、有楽町の駅に向かって歩いていた。

結婚後2月しか経っていないのだから、
普通なら一刻でも早く帰って新妻の顔を見たいと思うことだろう。

しかし、吉野にはそんな気持ちはまるでなかった。
吉野は両親と別居し二人だけの新婚生活を送っていたが、
少しも喜びを感じていなかった。

由美は確かに美人である。
性格も悪くない。
話をしてもつまらなくはない。

料理その他の家事一切もそつなくこなしている。
彼女は今時珍しい位の良妻であった。

しかし……。

彼女には吉野を惹きつける魅力はなかった。

いや、吉野のほうが彼女に魅力を感じなかっただけである。

 改札口の近くまで来たとき、
どこかで見たような真ん丸顔に出会った。

吉野がその顔にじっと見入っていると、

そいつは、
「あら、吉野君じゃない。
私よ。忘れたの。弘子よ。」と、
声を発した。

 化粧が厚くずいぶん老けた感じがしたが、
その顔は間違いなく伊東弘子だった。

彼女は中学時代の友人で
サクラナの一番の親友であった。

 「久し振りね。時間ある?
その辺で軽くお茶でも飲んでいかない?」

 「いいね。じゃあ、シーバルに行こう。」                
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