サクラナ
 目的地に着くと、
早速スケートが始まった。

女子の中にはけっこう滑れないものがいたが、
男子の方は吉野を除けばみな一応かっこうはついていた。

 クラスメイトの中にはスケートが上手なものが多く、
中でも、サクラナは素晴らしかった。

 もともとサクラナは運動神経は良い方だったが、
スケートの腕はずば抜けていた。

 回転をしたり、バックで滑ったり、
スケートを知らない吉野にとって
彼女の滑りは神業に近いように思えた。

 それに比べ、吉野は手摺に掴まって
おそる、おそる、滑って、いや、動いていた。

 そして、吉野が手摺から手を放すとすぐ転んだ。

惨めなものだった。

 そんなことを繰り返していると、
そこへ、サクラナがやってきた。

 「あんた、スケート、初めて?あたしが教えてあげる。」

 そういうと、サクラナは吉野の手をとった。

 手袋をしていたのでサクラナの手の感触は
よくわからなかったが、
なんとなく暖かく感じたのを吉野は覚えている。

 「足を“ハ”の字の逆にして。
そう。そしたら、そーっと、
右足を前に。そう。……。その調子。」

 サクラナの教え方がうまいのか、
しばらくすると、
吉野はどうにか転ばずに滑れるようになった。

 「まあ、一応、かっこうだけはついたわね。
今度、また、教えてあげる。」

 吉野はそれから後のことはよく覚えていない。

 そのときの旅行については
サクラナからスケートを習ったことだけが
印象に残っていた。
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