サクラナ
 そして、卒業の時が来た。

 サクラナに告白する絶好のチャンスであった。

 吉野は密かにサクラナを
スケートに誘うことを考えていた。

 吉野は、卒業式が終り互いに別れを惜しむ中、
その機会をうかがっていた。

 そこへ、同じクラスの細島和江という女が吉野に声をかけた。

 「吉野くん、ちょっと来て。」

 和江はそういうと手招きをして、
吉野を屋上まで連れ出した。

 そこには、好美がいた。

 好美はおとなしく無口で
吉野のクラスでは目立たないほうだった。

 勉強会でも一番静かで
いつも吉野たちの話しを黙って聞いているだけだった。

 サクラナを動の典型とすれば、
好美は静の典型といった感じであった。

 容姿は良く見れば美人と言えるかもしれないが、
顔の造作が地味なので
一見しては普通の女の子にしか見えなかった。

 「好美が握手して欲しいって。」
 
 和江がそう言うと、好美は顔面を真っ赤にして、
小さな右手をそっと差し出した。

 吉野は黙ったまま好美の手を握った。

 すると、好美の瞳から涙が零れかかった。

 吉野は好美の手を一度強く握りしめ、
 
 「ありがとう。」

 と言って手をはなした。

その瞬間、好美の瞳から涙が零れ落ちた。
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