サクラナ
 翌日、吉野は好美の家に電話をかけた。

 好美をデートに誘うためである。

 しかし、好美はいなかった。

 和江と旅行にでかけていたのだ。

 この時、吉野は一応の義務を果たしたような気がしてほっとした。

 それと同時にまた、自分の恋の悩みに襲われた。

 好美のことを考えることで
サクラナのことをしばらく忘れられたが、
それがなくなると
またサクラナのことが思われて仕方なかったわけである。

 本当なら好美にしたように
サクラナのところに電話をしてデートに誘えば良いわけだが、
吉野にはそれができなかった。

 サクラナにデートを断られることが怖かったからである。

 サクラナにふられることで
自分が傷つくことが怖かったわけである。

 もちろん、
 吉野に自信があればそんな心配は必要がなかったが
吉野にはなぜか自信がなかった。   

 だが、チャンスは向こうからやってきた。
サクラナから電話があったのだ。

 「あんた、明日、ひま?」

 「ひまだけど…。」

 「良かったら、明日スケートに行かない?」

 「いいけど。」

 「じゃあ、11時に○○駅の改札で待ってるから。バイバイ。」

 簡単なやりとりだった。

 でも、吉野はとても嬉しかった。
 万歳したいくらいだった。
 吉野はさそっく明日の準備にとりかかった。

 まず、銀行に行き貯金をおろし、
その金で春物の白いセーターとスリムのジーンズを買い、
床屋にも行った。

 某雑誌を買ってきてスケートの後のデートコースも決めた。

準備は万全のはずだった。
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