サクラナ
 吉野はサクラナと歩きながら何を話そうか考えた。
 しかし、
言葉は浮かばなかった。
 しばらく、沈黙が続いた。
何か言わないと。
せっかく二人きりになれたのに。
吉野は焦った。

 しかし、焦れば、焦るほど言葉が出ない。

 そうするうちに、代々木の駅が見えてきた。

 すると、突然サクラナが、

 「あんた、頭が痛いっていうの嘘でしょ?」

 と真面目な顔で尋ねてきた。

 吉野が唖し黙っていると、
 
 「やっぱり。あたし勘がいいんだから」
 
 サクラナはそう言って笑い出した。
 
 「あんただけ一人取り残されたから
ふてくされていたんでしょ?」

 サクラナにからかわれた吉野は、
すねたように口を尖らせて、言った。

 「だって、この前、
またスケートを教えてくれるって言ったじゃないか。」

 「教えてあげようかな。
と思ってあんた見たらもうスケートやめていたのよ。
 これじゃ教えようがないじゃない。」

 二人はお互いの顔を見合わせると同時に笑い出した。
< 45 / 89 >

この作品をシェア

pagetop