サクラナ
 サクラナが
吉野に対し自分の身の上話をするのはこれがはじめてだった。

 そういう話しになると、
こころなしかサクラナの話方が女らしくなる気がした。

 吉野はサクラナの話しを聞きながらサクラナの顔を観察した。

 これまではこういう感じで話をしたことがなかったためか
サクラナの顔を正面からじっくり見たことはなかった。

 サクラナの顔を良く見ると右目の下に
小さな黒子--いわゆる泣き黒子というやつがあった。

 肌は白く、艶があり美しい。時折のぞく前歯も揃っている。

 澄んだ瞳は眩しいくらい輝いていて、
良く見れば見るほど彼女は美しい。

 吉野がそんな思いにとらわれていると
早くも注文の海老フライが来た。
見た目の大きい海老が二つ目立った。

 「海老が小さくなったみたい。」

 「おまえが大きくなったんだよ。」

 吉野がそういうとサクラナはにこっと笑い、
海老フライに口をつけた。海老フライの味はまあまあだった。
衣が大きく見た目程中の海老は大きくないが、
小さすぎると言うこともなかった。

 「昔の方がおいしかった。」

 サクラナが独り言のように呟いた。

 吉野にはサクラナの気持ちが良く分かるような気がした。
 
 その後、少し話しをして、二人は帰ることにした。
 
 二人は△△から××線に乗り**駅で降りた。
 
 吉野の家はそこから北側にサクラナの家は西側にある。
 
 しかし、日も暮れていたので、
吉野としては彼女を家に送るつもりだったので
ここで別れるつもりはなかった。だが、サクラナは、

 「あんたの家あっちでしょ。
あたしの家こっちだから。じゃあね。また。」

 と言うと、そそくさと西の方向に走りかけた。

吉野は、

 「待てよ。家まで送るよ。」

と言ってサクラナを呼び止めた。

 「まだ早いから一人で大丈夫。ありがとう。」

 「駄目だよ。送っていく」
< 48 / 89 >

この作品をシェア

pagetop