サクラナ
 確かにサクラナのいう通り
時間的にはまだ7時を過ぎたばかりで
そう心配する時間ではなかったが、

 吉野としてはサクラナを送りたかったので、
吉野は送ることを固執した。

 吉野の言い方が強かったためか
サクラナはそれ以上断らなかった。

 帰り道では吉野が前を歩き
サクラナは吉野の後を少し距離を置いてついて来た。

 駅の西側に続く道は
車二台がやっと通れるぐらいの道幅で
その両側には小さな商店が軒を並べて連なっていた。

 右脇にある焼き鳥屋からは白っぽい煙りが出ていて、
香ばしいにおいがあたりを漂よっていた。

 いかにも下町の商店街という風情であった。

 もっとも、商店の半分ぐらいはもう閉まっていたが、
人通りはまだ多く、
吉野はだれか知った奴に出会うのではないかと少し不安であった。

 二人はその中で人目を気にしながら
その日見た映画の話しなどをして少し急ぎ足で歩いた。
 
 商店街のはずれにくると、
その左側に細い道があり××銀座
と呼ばれる小規模な飲み屋街となっているのがわかった。

 サクラナの話しでは彼女の家は
その飲み屋街の一画にあるという。

 二人はその細い道を進んだが、
この頃から会話も少なくなり、
サクラナの家が視界に入る頃には
二人とも黙りこむようになっていた。

 そうするうちに、
二人はサクラナの家の前に来た。

そこは飲み屋街の一番奥にあり、
見るからに寂しそうな所だった。

サクラナは、
右側の木造で今にも壊れそうな2階建の小さな建物を指して、
恥ずかしそうに、

 「ここの2階があたしの家。」

 と言った。
< 49 / 89 >

この作品をシェア

pagetop