サクラナ
　次のデートは＊＊湖でのハイキングであった。

　＊＊湖までは電車で２時間半かかるので
７時半に＊＊駅で待ち合わせをした。

　吉野の方が先に待ち合わせの場所に着いた。

　約束の時間より１０分程前だつた。

　それから、
　１５分ほどするとサクラナが二つの水筒を肩にかけ、
紙袋とバスケットを重そうに持って現れた。

　「御免。これ作ってたら、遅くなっちゃった。」

　サクラナはそういうと
右手を挙げて真っ赤なバスケットを吉野に示した。

　「いいよ。おれも今来たばかりだから。
そこに、何が入っているの？」

　「お菓子とお弁当。５時に起きて作ったんだから。」

　「おまえが作ったの？」

　と吉野がからかうと、
サクラナは怒ったように
少しほっぺたをふくらませて言った。

　「あっ、信じてない。いいよ。
あたし一人で食べるから。」

　「違うよ。
サクラナらしくないからびっくりしただけだよ。」

　この時、吉野は初めてサクラナの名を呼んだ。
いつもはサクラナのことを
おまえとか樫とか呼んでいたが
この時はなぜか自然にサクラナと言えた。

　「あたしって、こう見えても結構家庭的なんだから。」

　サクラナは偉そうにそう言った。

吉野は、サクラナの言葉に答えず、

　「ほら。」

　と言ってサクラナに切符を渡し、
それと引き替えに荷物を持つと
さっさとホームの方へ歩き出した。

< 52 / 89 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop