サクラナ
***湖の最寄りの駅には10時少し前に着いた。
***湖はそこからバスで20分ぐらいで着いた。
ハイキングの目的は***湖を一周することだった。
***湖はその周囲が12キロぐらいだから
ゆっくり歩いても4時間で回れる予定であった。
湖畔はまだシーズン前のためか
人影はまばらで静まりかえっていたが、
それが快晴の天気と相俟ってかえって
デートには絶好の場となった。
吉野たちは自然を楽しむかのようにゆっくりと歩いた。
時折、
立ち止まっては吉野が持ってきたコンパクトカメラで写真を撮った。
1時間程歩くと吉野はもう御腹が空いてきた。
まだ11時を少し過ぎたばかりであったが
朝が早かったことと歩いたことで
御腹が空いてしまったのだ。
そこで、吉野は、
「腹へったよ。昼食にしようよ?」
と甘えるように言った。
サクラナは左手の腕時計を見て、
「まだ11時じゃない。」
と言いながらも、
あたりを見渡し、大きな木の陰を指差して、
「じゃあ、あそこで食べない。」
と言って自分が指差した方に向かって歩き出した。
木陰に来ると、
サクラナは吉野から紙袋を受取り
そこから大きな長方形のシートを取りだし、
その場に敷いた。
サクラナはシートを敷き終わると、
シート上の木に近い方を指差し、
「吉野くん、あそこに座って。」
と言った。
吉野はサクラナが『あんた』ではなく、
ちゃんと自分の名を呼んでくれたのに耳を疑い、
思わず、
「えっ。」
と聞き返してしまった。