サクラナ
サクラナは
吉野がそこに座るのを嫌がっているのか
と勘違いしたのか、
先程と反対側の湖に近い方を指差し、

 「あっちに座る方が湖が見えて景色がいいのに……。
じゃあ、こっちでもいいよ。」

 と言いかけたが、ぽんと自分の頭を叩いて、

 「あたしって馬鹿ね。
こうすれば、二人とも湖が見れるじゃない。」

 と言ってシートの向きを90度回転させた。

 二人はシートの上に座った。

 吉野はあぐらをかいて座っていたが、
サクラナは正座だった。

 サクラナはスカートをはいていたからだ。
 
 「湖畔のハイキングだからスカートで
大丈夫と思ったんだけど。
やっぱりジーンズでもはいてくれば良かった。」

 サクラナは独り言のようにそう言いながら、
バスケットの中の物を取りだし二人の間に並べた。

 吉野の目の前には、
ラップに包まれたおにぎり、サンドイッチ、
サラダ、じゃがいもとか
人参の煮物などの食べ物が置かれた。

 「うまそうだな。」

 と言って、
吉野が手を出そうとした時、
 サクラナは、
 
 「まだ、駄目。」
 と言って、

 吉野の手を遮り、
紙袋の中のビニール製の筒からおしぼりを取り出して、
吉野に渡した。

 「これで手を拭いて。」

 「気が効くね。」

 吉野がおしぼりで手を拭いていると、

サクラナは食べ物の説明を始めた。
 
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