サクラナ
別れ
 もう日が暮れていて空は暗かった。

 吉野は、

 「送るよ。」

 と言って、
 サクラナの家のある方に歩き出した。

 サクラナは初めてのときのように断りはしなかった。

 帰り道では、サクラナの方から次のデートを申し込んできた。
 
 「ねえ、また会ってくれる?」
 
 「うん。」
 
 「じゃあ、明後日はどう?」
 
 吉野は考え込んだ。

 実は明後日は好美と会う約束になっていたからである。

 前に吉野が電話したことで好美の方から連絡があり、
会う約束をしてしまったわけである。

 このとき、
 吉野が、好美とのデートをキャンセルして
サクラナとデートをすればあんなことが起らなかったかもしれないが、
元来真面目な吉野には
好美とのデートをキャンセルするなんてことは
思いもつかなかった。

 だから、吉野はこう言って、
その時の誘いを断ってしまった。

 「御免、その日は駄目なんだ。
でも、明々後日ならいいけど?」

 「御免。その日はあたしが駄目。」

 「何か用あるの?」

 サクラナはこの時一瞬とまどった様子であったが、

 「うん、ちょっと、親戚の所へ行くの。」

 と答えた。

 「じゃあ、また、連絡するよ。」

 「うん。」
 そうして、二人はサクラナの家の前にくるとそこで別れた。
 このとき、
 吉野は
これがサクラナと最後のデートになろうとは夢にも思はなかった。
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