サクラナ
 好美との交際はそれから半年以上も続いた。

 吉野はこの間好美を愛そうと精一杯努力した。

 しかし、所詮、同情だけで人を愛せるものではない。

 いくら、吉野が努力しても、
好美への同情こそ深まっても、
好美への愛が生まれることはなかった。

 ある日、吉野は別れを告げるために
いつも二人が待ち合わせる喫茶店に好美を呼び出した。

 もちろん、吉野は、自分のやろうとしていることが
身勝手なことであることを十分承知していた。

 そのため、好美がすんなり納得するとは思ってはいなかった。
 好美が怒ったり泣いたりすることも覚悟していた。

 吉野としては、どんな事態になろうともただ謝るしかない
と思っていた。好美が来た。

 しばらくはとりとめもない話をした。

 そうして、吉野は、ころあいを見計らうと、
突然、神妙な顔をして、

 「実は、今日呼び出したのは……。」

 と、言いかけたが、好美が言葉を遮った。

 「わかってる……。とうとうこの日がきたのね。」

 好美は穏やかにそういうと、
窓越しに見える通行人の群れを見つめた。

 意外にも好美は落ち着いていて、
表面的には悲しい様子はなかった。

 だが、吉野には好美のそんな態度がかえってせつなく思え、
謝らずにはいられなかった。

 「御免……。」

 「よしてよ。」

 好美は笑顔を作ってそういった。

 「でも……。」

 「いいの。私、この半年ぐらいすごく楽しかったから。
本当にありがとう。
でも……、好きでもない子にあまり優しくしちゃ駄目よ。」
 
 好美が去ったテーブルの上には
飲みかけのレモンティーと
100円玉が6つ残っていた。
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