サクラナ
 しかし、
 そんな吉野に再びサクラナを思い出させる出来事があった。

 結婚式の一週間ほど前のことである。

 吉野が仕事の帰りに渋谷の本屋で
新書を物色していると
誰かに肩を叩かれているのに気付いた。

 振り返るとそこにはあの池田がいた。

 グレーのスーツに身を包み体こそ立派な社会人であるが、
懐かしそうに笑う顔は昔のままである。

 「久し振りだな。中学を卒業して以来だから
もう10年くらいになるかな。
それにしても、おまえ老けたな。」

 池田はそういうと
吉野の額を嬉しそうに軽くこずいた。

 「おまえこそ、どこから見ても、
立派なサラリーマンじゃないか。」

 吉野はそう言って池田のネクタイを軽く引っ張った。

 吉野はこれまで池田の顔も見たくないと思っていた。

 しかし、実際、池田に会ってみるとそんな気持ちは拭き飛び、
無性に懐かしくなった。 
 「おい、今日ひまか?そこらで、一杯やろう。」

 池田はそういうと吉野の返事も聞かずに、
吉野の腕をとり外へ連れ出した。

 二人は近くの居酒屋に行くと、
杯を交わし、昔話を始めた。

 そのうち、酔い始めた池田が、
サクラナの話をきりだした。
 
 「覚えているだろ、サクラナを。
樫サクラナだよ。おまえが写真を貰って来た女さ。」

 池田はそういうと、意外な事実を話し出した。
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