サクラナ
サクラナと由美
 吉野は、異臭の中、目を覚ましたが、
今の自分の状態はよくわからなかった。

 ただ、薬臭い匂いと周りの雰囲気から
自分が病院のベットにいることはわかった。

 ふと、横を見ると、そこには、由美がいた。

 しかし、そこにいた由美は
いつもの由美とは少し違った。

 頬が少しこけ、瞼は腫れ、
目の下にはくまが出来ていて、
いかにも疲れたと言う感じであった。

 「おれは、どうしたんだ?」

 吉野がそう呟くと、

 由美は、

 「あなた、気が付いたの?私よ。わかる私よ。」

 そういいながら、
吉野の額を撫でた。

 「由美、おれはどうしたんだ?」

 由美は吉野のこの言葉を聞くと、
何かがはじけたように、吉野の胸に泣き崩れた。

 吉野があとから聞いた話によると
--吉野はあの直後事故に遭った。

 吉野が急に交差点へ飛び出したところへ、
スピードを出して走って来たオートバイが衝突し、
その衝撃により、頭部を強く打った。

 幸い、検査の結果では、
頭骸骨および脳に異常はなかったが、

ただ、意識の方はなかなか戻らず、
約4日間意識不明の状態が続き、
その間、由美はほとんど徹夜で吉野を看病した。

--ということである。

 吉野は意識を取り戻してからは順調に回復し、
3週間後には退院することになった。

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