サクラナ
 由美はまだ話し続ける。

 「その後、
 私たち、お茶を飲みにいったの。

 そこで、結構長く話をしたのよね。

 あなた子供のころの話をしてくれて、
私を退屈させなかったわ。

 そして、時計を見たら、
もう11時近くになっていたの。」

 「ふーん、良く覚えているね。」

 「それから、
 タクシーで私を送ってくれたわ。

 それで、私のアパートの前に着いたので、
そこで別れようとしたの。
 そしたら、あなた、

 『部屋どこ?』

って聞いてきたのよ。

 私、黙って、2階の私の部屋を指差したわ。

 そしたら、あなた、タクシーから降りてきて、

私の荷物を持ったままアパートの階段をあがり始めたのよ。

 その時、

 『この人、部屋にくる気かしら?』

って心配になって、

あなたを後ろから見ていたの。

 そしたら、
 
 あなた、階段を足音を立てないようにして

そっとあがっていったの。

 私の知っていた男の子なんか、

夜中でも、どたどたと大きな音を立てて
階段をあがっていたのよ。

 私が

 『他の人に迷惑だから静かにあがって。』

と言ってもいうことを聞かないで」


 「誰だよ?その男。」
 「いやーねえ。一人で来たんじゃないわよ。何人かで遊びにきたの。」
 由美はそう言い訳をした。
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