サクラナ
 吉野は家に帰ってみて
初めて自分がとんでもないことを
引き受けてしまったことに気がついた。

 池田に頼まれたときは
樫と話すいいきっかけだと思い深く考えなかったが、

 良く考えてみると
その年頃の女の子が話をしたこともない男に
自分の写真を渡すはずがないからである。

 写真が貰えないだけならまだ良いが
本当に怖いのはそんなことを頼んだために変な奴だ
と思われて嫌われることである。吉野は後悔した。

 しかし、男が一旦約束した以上今更いやだとは言えない。

 なにかいい方法はないか、吉野は考えに考えた。

 しかし、なにも考えつかなかった。

 次の日、吉野はいつもより二時間も早く布団をでた。 
 サクラナに会うことが心配で昨夜から眠れなく、
いてもたってもいられなかったのだ。

 吉野はすぐにシャワーを浴びた。
 サクラナに嫌われることは目に見えているが、
せめて身形だけはきっちとして
サクラナと話しがしたいと思ったからだ。

 シャワーを浴びたあと、
 吉野は丹念に頭をセットし、
父が使っているコロンをつけた。

 そして、掃除当番だから早く家を出ます、
という書き置きを食卓の上に置いて家を出た。

 学校にはいつもより1時間も早く着いた。
 吉野はてっきり自分が一番のりだと思ったが、
教室にはもう池田がいた。

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