my catty girl~もし私がネコになっても~
誰もいない教室から出て、ふと左手の廊下の先に目をやった。
遠くにいるのは学と…知念さんだ…
彼らから目を逸らし、靴箱のある右手へ歩きだした。それは無意識に早歩きだった。
知念麻美―ちねん あさみ―は学と同じ美術部員の1年の後輩で、長い黒髪の似合う色白で綺麗なコ。
だから男子からは当然のようにモテたし、女子の密かな憧れの的でもあった。
私は恥ずかしくて、学のことをいつも「長谷川くん」って呼ぶしかできなかったけれど、彼女はいつからだろうか…
親しげに「学」って呼んでいるのを聞いた事がある。
その時は顔が一瞬こわばってしまったけれど、きっと学自身がああいうキャラだから、誰に何て呼ばれても気にしてないんだろうなって思った。
「あの、先輩!」
どきっ、とした。
「えっ、は…はい」
その鈴のように凛とした声で、さっきまで考えていたものが割れて無くなる。
そんな感覚だった。
「…仁科先輩?」
「あ…麻美ちゃん、どうしたの?」
そこには知念麻美が一人で、学はいなかった。
「…仁科先輩って今日この後、学…学くんと会うんですね」
「うん。…って言っても別に遠出とか、特別クリスマスっぽい事する訳じゃないんだけどね。麻美ちゃんはパーティーとかするの?」
「今日は特に。…明日はデートなんですけど」
「そうなの?いいなぁ、クリスマス当日に好きな人に会えるなんて」
「あのね、先輩」
今まで少しは朗らかだった彼女の表情が変わった。