あたしの風
転校生
あの男性(ひと)がやってきたのは2学期の途中、そうです、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。
教室の大きな窓から吹き込んできた風のようにあのひとはやってきました。

転校生でした。
本当に冷たい風のようなひとでした。
でも、あたしには、その風がとても心地よかったのです。
お風呂に入った後、お散歩に出かけた時に感じる風のように。
クラブ活動を終えた帰り道に、あの丘の上で感じる風のように。
遠足で行った高原で、あたしの頬を一瞬なでる風のように。 あのひとは、遠く遠くから風と一緒にやってきました。 この田舎町よりも、ちょっと都会だったようです。 クラスメイトも、そしてあたしも、その風が教室内で吹くことにためらいがありました。

  だって、 その風は、香りが違ったからです。
  その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
  その風は、少し湿っていたからです。

 でも、あたしは、その風に優しさを感じていました。
  あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
  あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。

いつもは優しいあたしのクラスメイトも、その風が教室に流れ込むことを許しませんでした。

なぜでしょうか。

やはり、
 その風は、香りが違ったからです。
 その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
 その風は、少し湿っていたからです。

 あのひとが連れてきた風は、そのうち、すっかり弱々しい風になってしまいました。
 もう風ではなくて、教室にある普通の空気に混ざってしまい、あの香りはなくなってしまいました。
 クラスメイトも、馴染めなかった新しい風が吹かなくなって安心しているようでした。
< 1 / 3 >

この作品をシェア

pagetop