シルバーブラッド 眠らぬ夜に
かすかな明かりから外れて、真っ暗な向かいのマンションの前を通りかかった。

こちら側が壁になっているので、住人のつけた明かりが漏れてこないのだ。

その道は、少し先で大きめの道路に出る。

そこそこの交通量があり、横断するのにちょっと手間取るところだ。

いつもはそうなのに、まだそれほど遅い時間でもないっていうのに、今は不思議に車の姿が見えなかった。

帰路を急ぐ人影すらない。

妙に静かなのだ。

浩之は、その、夜の静けさを楽しむように、たらたらと歩いていた。

アスファルトを見ながらタバコを吸いこんで、ぽつぽつと見える星に向かって、肺でこされた淡い煙を吐いた。


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