シルバーブラッド 眠らぬ夜に
父は急に山での仕事を辞め、会社員になってしまった。

それから十年以上、ここには来てない。

浩之は、大人になった。

けれど、ここは時が止まっていたかのようだった。

浩之が来ない間、ずっと、息を止めて、眠っていたのかもしれない。

今、浩之が足を踏み入れて、初めて、最後に来たときの続きの呼吸を始めたのだ。

そーっと積んだ、砂埃で、色だけを、少し褪せさせただけで。
 
浩之は、扉に触れた。

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