シルバーブラッド 眠らぬ夜に
 見ると、ニット帽を深々と被った男がそばにしゃがみこんでいた。

暗さのせいで、顔の造作まではよく見えない。

性質の悪い痴漢か?

でも痴漢が相手の名前を確かめたりするか?

そんなのおかしい。

 それに、触れられ方にも扱われ方にも、あの独特のいやらしさがなかった。

その代わり、浩之が今まで感じたことのないような異様な高ぶりを、その体から発散さしているのがわかる。

これは、もしかして殺気、か?

黙っていると、男は浩之に向かって手を伸ばしてきた。

あごの下に、ひんやりとしたものが押し付けられる。

冷たさに、思わず身を引いて、壁に阻まれた。

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