シルバーブラッド 眠らぬ夜に
内臓を持っていかれたような激しい喪失感のため、しばらくは泣くことも出来なかった。
 
初めて泣いたのは、小さな壷をこっそり開けたときだった。
 
あんなに存在感のあった人が。ほんの小さな骨壷にちょっとの骨を残しただけで、いなくなってしまったことが、悔しくて、理解できなくてどうしようもなかった。
 
人間は自分のためにしか泣けない生き物だっていう。

泣くという行為は、その人のためにするんじゃなくて、例えばその人を失った自分がカワイソウですることなのだ。

それはとてもエゴちっくな理由だという。

でも、だからどうだというんだ。

その人のことが大好きで、

その人を失った自分が空虚であまりに辛くてカワイソウで、泣くのだ。

そのひとがそれだけ大事であったことに変わりはない。

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