シルバーブラッド 眠らぬ夜に
風景も音も、全てが歪んで浩之の五感に届いていた。

現実の中で、重苦しい夢の中を漂うように呼吸していた浩之を、目覚めさせたのは、この音だった。
 
何をしようとしていたのか、自分でも分からなかった。
 
ただ、この音を聴いた瞬間、目が覚めたように、傷付いて血を吹く自分の手の平と、バスルームの床に転がったカッターナイフと、泣き叫ぶ母親の顔を見ている自分がそこにいた。

あの時と同じだった。

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