シルバーブラッド 眠らぬ夜に
トーンを落とした浩之の声は、艶っぽく響く。

 この場にはおよそ似つかわしくない声だ。

 おまけに、自分の顔に薄っすらと微笑が浮かんでくるのがわかる。

 追い詰められたとき、現れる人格、と言ったらいいのか。

 逃げ延びられるかどうか分からない、危機的状況下に陥ると、耐えられないほどの怖さや緊迫感から、浩之の精神は逃げる、のだ。

自分の心を守るための防衛本能がそう働く。

相手に好きなようにさせてやるために、邪魔な感覚は封じるのだ。

そおして、気持ちが悪いほど落ち着き払った、余裕さえ感じさせる笑みを貼り付けた自分になる。

 
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