シルバーブラッド 眠らぬ夜に
「何で帰らなきゃいけないんだ。だいたい、本人が来たことないじゃないか。」

 浩之は男にしては高めで、少しハスキーがかったその声でつぶやいて、苛々とポケットの中のタバコを探った。

 兄、英樹が家族の前から消えて、もう十年経つ。

 生きてるのか死んでるのかも分からないヤツを、母上はずっと心配している。

そして、自分が忘れないためなのか、浩之に忘れさせないためなのか、毎年浩之を呼び寄せて、誕生日を祝う。

 オレの誕生日は、存在すら忘れているようだけど。

「誰が帰るか。」

 指先でつまみ出したタバコを、唇にくわえて引っ張り出した。

 どこかの喫茶店でいただいてきたマッチを小さく手前に擦って火をつける。

 それを一服思い切り肺に吸い込むと、浩之は立ち上がった。

不愉快なメッセージを一刻も早く消去したかった。

 
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