シルバーブラッド 眠らぬ夜に
 いつか興味のある講義を見つけたら、本当にやってやろうかと思っている。

ただし、先生方のほとんどと顔なじみなので、面のわれてないセンセの講義を選ぶのはなかなかむつかしいのだが。

浩之は足早に、研究室の並んだ棟に入り込んだ。

 何個かの部屋を通り越して、錦先生の所属する研究室に辿りつく。

 ノックをし、ドアと体の間にダンボールを挟んで、左でドアノブを回した。

少しドアを開けると、隙間に肩を突っ込んで、左手にダンボールを持ち直した。

「変わった入って来方だな」

 初老で頭の大半を白髪に侵されつつある錦先生が、すぐそばにいた。

本人曰く、自慢のロマンスグレーらしい。

確かに錦先生は、少し日本人離れしたところのある彫りの深い、なかなかいい男な顔立ちの先生だ。

だから黙っている限り、ロマンスグレーという響きが似合う。

それは認めてもいいが……

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