シルバーブラッド 眠らぬ夜に
柴崎さんにとって英樹はまるで世の中に存在するたった一人の男のようだ。

『明日、あなたの家の近くの、苺畑って喫茶店で会えないかしら。待ってるから。夜の八時に。それなら来られるかしら』

 電話が切られた。

 会ってくれと言われたのは、これが初めてだった。

しかも、かなり強引に、勝手に、予定を告げてくれている。

 一体彼女の心境に、どういう変化があったんだろう。

 もっと遠慮がちな人だったのに。

英樹のことが分からないままなのがたまらなくなったのか。

いい加減決着をつけたくなったのか。

「全く。」

 浩之は思わずつぶやいた。

 オレに用のある女はみんな英樹絡みかよ。

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