シルバーブラッド 眠らぬ夜に
自分のデスクに鞄を置きながら、片隅に置かれた箱を見つけた。

手にとって眺めていると、

「あ、それ増本さんからのお土産よ」

向かいのデスクから立ち上がって薫先輩が言った。

デスクは向かい合わせになっているのだが、お互い机の半分を、ユーザーと呼んでいるお客さんの、過去の注文リストをファイリングした、分厚い、何冊ものファイルに占拠されている。

だから、何か用事があるときは、立ち上がらないと、相手の顔も見えないのだ。

「増本さん?そういえば、海外旅行に行くって言ってたっけ」

 彼女は有給を使って、たまに外国へ逃げるのだ。

「ありがとう。増本さん」

 浩之は振り返って言った。

 通路をはさんで背中合わせの席に増本さんのデスクがある。

「今度はどこに行ったんだっけ?」

 増本さんは。嬉しそうに振り返った。

「ドイツよ。姉と一緒にロマンチック街道を心ゆくまで堪能してきたわ」

 
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