シルバーブラッド 眠らぬ夜に
 英樹は、そういうこと平気でするヤツだった。

 まだ小さい頃、あいつをまだ兄だと思ってた頃まで、その記憶はさかのぼれる。

幼稚園ぐらいだったオレをあいつは背の立たない、流れの速い川に突き落としたんだ。

 苦しいのと怖いのと、あいつの笑った顔が、今でも思い出せる。

「そんなに羨ましいなら、私の妹あげるわよ。

わがままで、奔放で、見ていて腹が立つわよ」

 浩之は、心の中がどろどろしてくるのを感じていた。

 あいつのことを思い出してはいけないんだ。

 深層心理と、表面上の感情を、浩之はゆっくりと切り離した。

「可愛いじゃないですか。欲しいな。妹さん」

 にっこり笑って言った。
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